2026.10.03

カスハラ対策の義務化で見えた業界の壁、銀行・医療とホテルで違う「断れるか」

この記事の結論:2026年10月1日からカスタマーハラスメント(カスハラ)対策が法律で企業に義務付けられたことを受け、弁護士ドットコムニュースは同日、ハラスメント問題に詳しい成蹊大学の労働法の教授への取材記事を配信しました(Yahoo!ニュースに掲載)。記事は、正当なクレームとカスハラの線引きは「内容」と「態度」の両面から総合的に判断すること、そして銀行や医療のように業法の規制で顧客へのサービス提供を断りにくい業界がある一方、2023年12月施行の改正旅館業法でホテルや旅館は一定のカスハラ客の宿泊を拒否できるようになったことを紹介しています。法律による措置義務に加え、自社の業種で何が可能かを整理した現場向けのルールづくりが求められます。

  • 改正労働施策総合推進法により、事業主にはカスハラへの対応方針の明確化と周知、相談体制の整備などが義務付けられた。罰則はないが、労働局の指導や勧告、勧告に従わない場合の企業名公表の可能性がある。
  • 東京都の調査では、カスハラ対策に取り組んでいない企業が約6割で、理由のトップは「正当なクレームとの判断の難しさ」(29.6%)だった。
  • 銀行や医療など業法の制約がある業界では、サービス提供を断れるかが課題になり得る。業界ごとの特性を踏まえた対応基準が必要になる。

カスハラ対策義務化初日の報道、企業が直面する「線引き」と「業界の壁」

報道によると、カスハラ対策の義務付けは改正労働施策総合推進法で定められました。法律はカスハラを、顧客、取引先、施設利用者などの事業に関係を有する者が、社会通念上の許容範囲を超えた言動により労働者の就業環境が害されることと定義しています。事業主には、対応方針の明確化と周知、相談体制の整備などが義務付けられます。法律に罰則はありませんが、防止策を講じない場合、都道府県の労働局から指導や勧告を受け、勧告に従わなければ会社名が公表される可能性もあるとされています。

東京都が2025年4月のカスハラ防止条例の施行から半年後に行った調査では、「カスハラ対策に取り組んでいない」と回答した企業が約6割でした。取り組まない理由は「正当なクレームとの判断の難しさ」が29.6%で最も多く、「ノウハウ不足」(23.8%)、「発生状況の把握が困難」(16.7%)が続きました。教授は、カスハラに当たるかどうかは「内容」(根拠のない高額な請求など)と「態度」(怒鳴る、脅すなど)の2つに注目し、どちらかに問題があればカスハラに当たり得るとして、両方を踏まえて総合的に判断するよう述べています。国の指針では「正当な申入れ」はカスハラに該当せず、障害のある人が合理的配慮を求めることも該当しないとされています。

記事はさらに、業種ごとの「業法」の違いにも触れています。業界によってサービス提供を断れるかどうかが異なるため、一律のルールでは対応しきれない面があります。

報道で紹介された、業界ごとの論点は以下の通りです。

業種・場面 報道された論点 企業が整理したい点
銀行など規制のある業界 業法の規制があり、カスハラを理由に口座凍結などサービス提供を断れるのかが問題になるとされる。 断る前に、対応方針、記録、監督官庁や業界団体の考え方を確認しておく。
医療(医師) 医師法の応召義務により、診察や治療を求められたときに拒んではいけないという制約があるとされる。 暴言・暴力への複数人対応、記録、警察への相談などの手順を決めておく。
飲食店・ホテル、旅館 飲食店は出入り禁止などの対応が比較的とりやすい。旅館業法は2023年12月施行の改正で、土下座の要求など一定のカスハラ客の宿泊を拒否できるようになった。 業法上の根拠と自社の判断基準をそろえ、現場が迷わない基準を示す。

「できること」は業種で違う。だからこそ自社のルールが要る

私たち一般社団法人クレア人財育英協会は、ハラスメントのない健全な職場環境づくりを推進する立場として、義務化の初日にこうした「線引き」と「業界の壁」が整理されたことを重要だと考えています。措置義務は全事業主に一斉に課される一方、サービスを断れるかどうか、どこまで対応するかは、業種や法令によって条件が異なります。

そのため、法律の条文をそのまま社内に掲示するだけでは、現場は動けません。「内容」と「態度」の両面から判断する基準、業法上できること・できないこと、対応を打ち切る場面、上長に引き継ぐ場面を、自社の言葉で明文化することが大切です。また、報道では、防止措置を適切にとることが、万一の際に賠償責任を軽減したり回避したりする可能性につながるとも指摘されています。専門家に確認しながら、実情に合った体制を整えてください。

雇用クリーンプランナー(KCP)の視点:業種の特性を踏まえたカスハラ対策の要点

義務化を機に、形だけの規程に終わらせないためのポイントは以下の通りです。

  1. 「内容」と「態度」の2軸で判断する基準づくり:
    根拠のない請求や過大な要求(内容)と、怒鳴る・脅すといった行為(態度)に分けて、対応の目安を事例で示します。正当なクレームへの誠実な対応と、毅然とした対応の線引きを現場と共有します。
  2. 業法・業界の事情を踏まえた「できること」の整理:
    サービス提供を断れるのか、どの段階で上長や弁護士、警察に相談するのかを、業種の事情に合わせて明確にします。判断に迷う点は、事前に専門家へ確認しておきます。
  3. 記録と相談体制、従業員ケアの一体運用:
    対応の経過を残す方法、現場が安心して相談できる窓口、被害を受けた従業員の事後ケアをひとつの流れとして整えます。社内で抱え込まず、KCPなど外部の専門家と連携できる状態が理想です。

結語:義務化はゴールではなく、運用のスタート

10月1日の義務化により、企業にはカスハラへの対応方針と相談体制が求められるようになりました。しかし、現場で本当に役立つのは、自社の業種に合わせた判断基準と、迷ったときに相談できる仕組みです。

顧客の声に誠実に向き合うことと、働く人を守ることは両立できます。義務化を契機に、自社の「できること」と「守るべき線」を見直し、運用を続けていきましょう。

業種に合ったカスハラ対策を、運用できる形にするために

カスタマーハラスメントは、業種や顧客との関係によって「できる対応」が異なるうえ、現場任せにすると従業員の離職や心身の不調につながりかねない経営リスクです。一般社団法人クレア人財育英協会では、ハラスメント撲滅のための啓蒙活動の一環として、自社の業種に合わせた判断基準の策定、相談窓口の運用、記録と事実確認、再発防止の体制構築をサポートする専門家「雇用クリーンプランナー(KCP)」の育成と認定を行っています。

「正当なクレームとカスハラの線引きを社内で共有したい」「義務化に対応した相談窓口と対応フローを実際に運用したい」とお考えの企業様は、ぜひ当協会の資格認定プログラムをご活用ください。

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