2026.05.20

パワハラの温床は「性格の悪い上司」だけではない。RIETI研究が示した昇進とダークトライアドの危うい関係|一般社団法人クレア人財育英協会

RIETIがパワハラ要因として「ダークトライアド」に着目

独立行政法人経済産業研究所(RIETI)は、ディスカッション・ペーパー「ダークな性格特性と昇進・賃金-パワーハラスメント解明のための考察」を公表しました。

本稿は、日本企業におけるパワーハラスメントの要因として、管理職の「ダークトライアド」に着目しています。ダークトライアドとは、マキャベリアニズム、サイコパシー、ナルシシズムという性格特性を指します。

パワハラを単に「怒りっぽい上司」や「職場の相性」の問題として見るのではなく、昇進や賃金の仕組みと結びつけて分析している点が重要です。


マキャベリアニズム傾向が強い人ほど、課長級以上に昇進しやすい傾向

RIETI全世代調査(2019年)を用いた実証分析の結果、特にマキャベリアニズム傾向の強い人ほど課長級以上に昇進しやすく、賃金も高い傾向が確認されたとされています。

ここで見えてくるのは、単に個人の性格の問題ではありません。組織がどのような人物を評価し、どのような人物を管理職へ押し上げてきたのかという問題です。

成果を出す、周囲を動かす、説得する、強く押し切る。こうした能力が評価される一方で、それが人を支配する力として働く場合、職場は静かに危うくなります。


昇進後はさらなる昇進や高賃金との明確な関連はみられなかった

一方で、課長級以上に昇進した後は、これらの性格特性とさらなる昇進や高賃金との明確な関連はみられなかったとされています。

これは、マキャベリアニズムの強さが「入口」として機能している可能性を示します。管理職になるところまでは有利に働く。しかし、その後の継続的な成果や上位昇進とは必ずしも直結しないということです。

だとすれば、組織は「管理職に上げる時点」でかなり慎重になる必要があります。昇進後に研修で何とかするだけでは遅い場面があるからです。


人手不足と競争的な職場が、パワハラを生みやすい構造をつくる

RIETIの概要では、マキャベリアニズムの高い管理職は、人手不足や競争的雰囲気の強い職場に多いとされています。

さらに、説得力や働きかけ力を発揮しつつ、職務命令を是とする傾向があったと説明されています。

ここがパワハラの発生構造に直結します。人手が足りない。競争が激しい。結果を急ぐ。そこに、強く動かすことを得意とし、命令を正当化しやすい管理職が置かれる。すると、本人は「仕事を進めている」つもりでも、部下には圧力として作用しやすくなります。


論点 パワハラ対策は「悪い人を罰する」だけでは足りない

この研究が突きつけているのは、パワハラを個人の道徳問題だけで処理する限界です。

もちろん、加害行為をした本人の責任はあります。しかし、組織がその人物を評価し、昇進させ、権限を与え、人手不足と競争の中に置いてきたなら、問題は個人だけでは終わりません。

むしろ、パワハラを生む性格特性を持つ人が上に行きやすい評価制度だったのではないか。強い命令や圧力を「推進力」と誤認していなかったか。そこまで見なければ、同じタイプの管理職はまた生まれます。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 昇進前に「人を動かす力」と「人を支配する力」を分けるべきです

この研究の核心は、管理職のハラスメント研修だけでは足りないという点です。すでに権限を持った後では、本人も組織も「成果を出しているから」と言い訳しやすくなります。ここも運用で決まります。

次の一手は3つです。
①初動:昇進候補者について、成果だけでなく、部下や同僚への関わり方、異論への反応、失敗した人への態度を確認します。数字だけで管理職適性を見ないことです。
②通報設計:人手不足や競争の強い部署ほど、部下が上司の圧力を相談できる窓口を持つ必要があります。不利益取扱い禁止を明文化し、「成果を出す上司だから言いにくい」を放置しないことです。
③再発防止:管理職研修だけでなく、昇進基準、人事評価、配置、職場風土を点検します。心理的安全性と安全配慮義務は、人格教育ではなく人事制度の設計で守るものです。


結語 組織が「支配できる人」を昇進させているなら、パワハラは偶然ではありません

パワハラ上司は、突然現れるわけではありません。多くの場合、組織が評価し、権限を与え、止めずにきた結果としてそこにいます。

判断軸は単純です。その人は、人を動かしているのか、人を黙らせているのかです。前者を評価し、後者を昇進させない仕組みを持てるかどうか。パワハラ対策は、相談窓口の設置だけでなく、誰を上に上げるのかという人事の入口で始まっています。


【出典】

ダークな性格特性と昇進・賃金-パワーハラスメント解明のための考察

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