2026.05.12
東京都カスハラ防止条例から1年。現場が求めているのは理念ではなく「一人で抱え込ませない仕組み」|一般社団法人クレア人財育英協会
東京都カスハラ防止条例から1年 見えてきたのは現場の疲弊です
去年4月に「東京都カスタマーハラスメント防止条例」が施行されてから1年がたちました。
カスタマーハラスメントは、客から働く人への悪質な迷惑行為です。これによって心身の健康が害され、離職に追い込まれることが社会問題になっています。今回の記事が重いのは、制度の説明ではなく、エッセンシャルワーカーの現場で何が起きているかを具体的に映している点です。
事業ごみ回収の現場 感謝される一方で、通行人から暴言や侮辱を受ける
記事ではまず、東京23区を中心に飲食店などの事業ごみを収集・運搬する「株式会社利根川産業」への取材が紹介されています。
取締役部長の利根川靖さんによると、回収先には駐車場がないことも多く、路上に止めて作業する場面では、後ろからクラクションを鳴らされたり、怒鳴られたりすることがあるといいます。直接言葉にされなくても、嫌な顔や鼻をつまむしぐさを向けられることもあるとされています。
ここで見えるのは、直接の契約相手ではない周囲の人からも、仕事そのものや職業への軽視が向けられていることです。感謝される仕事でありながら、同時に蔑まれる。そのねじれが現場の疲れを深くしています。
利根川産業が導入したのは、従業員を一人にしない共有の仕組みでした
利根川産業では、従業員がカスハラを一人で抱え込まないために、LINE WORKSを使ってドライバーとのコミュニケーションを取っているといいます。
被害や違和感があった時に、報告し、他の従業員にも共有する仕組みを整えているとのことです。さらに、寄せられた体験をもとに、TikTokなどのショート動画で実例を発信し、同業者からも共感の声が届いていると紹介されています。
ここで重要なのは、カスハラ対策を「我慢の教育」にしなかったことです。現場で起きたことを見える化し、共有し、言葉にすることで、被害を個人の問題に閉じ込めない運用に変えているからです。
介護現場では、暴言だけでなく暴力も日常化していました
記事の後半では、対人サービスである介護の現場が取り上げられています。密室という逃げ場のない空間でのカスハラが深刻だとされています。
全国の介護従事者で組織される「日本介護クラフトユニオン」が2024年に行った就業意識実態調査では、直近2年間で利用者・家族から何らかのハラスメントを受けたとする回答が26.8%あったといいます。
副会長の村上久美子さんによると、暴言や人を蔑むような言い方が以前と変わらず多く、次いで殴る、蹴る、つねるといった身体的暴力が35%ほどあったとされています。前歯が折れた、眼鏡が飛んだといった深刻な被害も紹介されており、「犯罪ではないか」という内容も少なくなかったと語られています。
介護現場で進み始めたのは、契約解除の可能性を先に伝える対応です
記事では、日本介護クラフトユニオンがこれまでの調査結果を国に報告し、対策を求めてきた成果も紹介されています。
近年は、介護現場で事前にハラスメントによる契約解除の可能性を伝える事業所が徐々に増えてきているといいます。契約書や重要事項説明書、あるいは別紙で、「こうした行為があれば契約解除になる場合がある」と利用者や家族に伝える運用です。
ここでようやく、介護は受忍の職業ではないという最低限の線引きが始まっています。利用者支援と、働く人の尊厳保護を両立させるためには、事前の説明と停止基準が不可欠だということです。
論点 カスハラの本質は「怒鳴られたこと」ではなく、「我慢を当然にされること」です
ごみ回収も介護も、生活を支える仕事です。だからこそ、社会はそこに「サービスする側なのだから耐えるべきだ」という無言の期待を押しつけやすいです。
ですが、カスハラの本質は、暴言や暴力そのものだけではありません。その行為が起きてもなお、働く側が一人で飲み込み、説明し、我慢し、仕事を続けることを当然視される構造にあります。条例やマニュアルがあっても、この構造を壊せなければ現場は変わりません。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 必要なのは「耐え方」ではなく「止め方」の設計です
この記事の核心は、エッセンシャルワーカーの現場が弱いのではなく、弱いままで働かされてきたことです。ここも運用で決まります。
次の一手は3つです。
①初動:暴言、侮辱的しぐさ、クラクション、威圧、身体的暴力などがあった時は、日時、場所、相手、内容を記録し、すぐ共有できる仕組みを持つこと。
②通報設計:現場の担当者が一人で抱え込まず、会社や事業所にすぐ相談できる窓口と、不利益取扱い防止を整えること。
③再発防止:契約書、重要事項説明、掲示、研修、SNS発信などを通じて、「どの行為が線を越えるのか」「線を越えたらどう止めるのか」を事前に共有すること。心理的安全性と安全配慮義務は、理念ではなく停止手順で守るものです。
結語 社会を支える仕事ほど、社会から雑に扱われてはならない
私たちは、ごみが回収され、介護が続き、暮らしが回ることを当たり前だと思っています。ですが、その当たり前は、現場で働く人が黙って耐えることで成り立ってよいものではありません。
判断軸は単純です。その仕事に従事する人が、安心して働ける状態にあるかどうかです。カスハラ対策の本気は、ポスターや条例ではなく、現場の人が「もう一人で抱えなくていい」と思えるかで決まります。
【出典】
