2026.05.14
岡山県のカスハラ基本方針が示した「毅然と対応」の中身。職員と教職員を守るために録音電話まで導入へ|一般社団法人クレア人財育英協会
岡山県がカスハラ基本方針を公表 丁寧な対応と毅然とした対応を両立へ
岡山県は、カスタマーハラスメントへの対応に関する基本方針を公表しました。
県民からの意見や要望には、丁寧かつ誠実に対応することを基本としながら、行きすぎた言動には「組織として毅然とした対応で職員を守る」と掲げています。
ここで重要なのは、苦情や意見を拒む方針ではないことです。行政として受け止めるべき声と、職員の人格や勤務環境を壊す言動を分ける線を引いたということです。
改正労働施策総合推進法を踏まえた対応 10月義務化を前に県が動いた
今回の基本方針は、2026年10月から事業者にカスハラ防止措置が義務づけられる改正労働施策総合推進法を踏まえた取り組みとされています。
岡山県は、職場向けのマニュアルや事例集の作成・活用、組織対応に向けた役職別研修、ポスターやチラシによる周知・啓発を進めると表明しました。
方針を作るだけでは、現場は守れません。どのような言動がカスハラに当たり、誰が対応を引き継ぎ、どこで止めるのか。そこまで現場に落とすために、マニュアルと事例集が必要になります。
県職員の51%、教職員の31%が「カスハラを受けた」と回答
岡山県は昨年、県職員や教職員を対象にカスハラの実態調査を実施しました。
2022年度から2024年度までの3年間で、「カスハラを受けた」と回答した人は、県職員で51%、教職員で31%に上ったとされています。
さらに「見たことがある」を含めると、県職員は73%、教職員は54%に増えました。これは、個別の困った住民対応ではなく、職場全体が認識している構造的な問題だと読めます。
県職員では建設・土木・税務で多く、執拗な電話やメールが57%
県職員では、建設や土木、税務の部署でカスハラが多かったとされています。
内容では、頻繁な電話やメールなどの「継続的・執拗な行動」が57%と最も多かったと報じられています。
行政の現場では、長時間の拘束や繰り返しの連絡が「熱心な要望」として処理されがちです。ですが、対応する職員の勤務環境が削られているなら、それはもう単なる意見ではありません。
教育現場では保護者対応が中心 電話での精神的攻撃が目立った
教育現場では、相手先のトップは「保護者」で51%とされています。
内容では、SNSでの誹謗中傷を含めた「精神的な攻撃」が26%と最も多く、応対時の状況は「電話」が53%と突出していました。
学校では、保護者対応が教育活動の一部として扱われやすいです。しかし、教職員が精神的攻撃や電話対応に追い込まれ続ければ、その負荷は授業や子どもへの関わりにも波及します。
県立学校に録音告知機能付き電話を導入 教育現場の守りを具体化
岡山県教育委員会は、録音の告知と録音ができる電話を、今年度中にすべての県立学校へ導入するとしています。
さらに、津山教育事務所に相談員3人を配置し、小中学校など町村立学校の現場で生じた問題の解決に向けた支援体制も整えました。
これは大きな一歩です。教職員個人の応対力に頼るのではなく、記録を残し、外部から支える仕組みを持とうとしているからです。
岡山市はカスハラ防止条例を施行 12類型を条文で例示
岡山市では、2026年4月1日からカスタマーハラスメント防止条例が施行されました。
罰則規定はありませんが、カスハラ自体を直接的に禁止し、12月をカスハラの「撲滅月間」とすることも定めています。
条例では、中傷や人格否定などの精神的攻撃、長時間の厳しい叱責など継続的で執拗な言動、人種や性的指向への侮辱的発言などの差別的言動を含む12類型が例示されています。
また、受け手となる「就業者」は広く捉えられ、個人事業主、フリーランス、ボランティア、実習生なども含めたとされています。
論点 行政サービスを守るには、職員を守る仕組みが先に要る
行政には、住民の声を受け止める責任があります。苦情や要望は、行政改善のきっかけになることもあります。
しかし、その声が人格否定、長時間拘束、SNS中傷、威圧に変わった時、職員個人に耐えさせるのは行政サービスの維持ではありません。むしろ、職員を疲弊させ、組織全体の対応力を落とします。
岡山県の基本方針が示したのは、職員を守ることが県民サービスを守ることにつながるという視点です。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 「毅然と対応」は、現場が止まれる手順まで落ちて初めて機能します
この件の核心は、カスハラを問題視したことではありません。録音電話、事例集、研修、相談員配置まで含めて、現場が一人で抱え込まない仕組みに近づけた点です。ここも運用で決まります。
次の一手は3つです。
①初動:電話、メール、SNS、対面での威圧や執拗な要求があった時、日時、内容、相手、対応経過を記録します。録音告知機能付き電話は、その第一歩になります。
②通報設計:職員や教職員が、上司だけでなく相談員や外部窓口につながれる導線を整えます。不利益取扱い禁止を明確にし、「対応できなかった職員が悪い」にしないことが重要です。
③再発防止:マニュアルと事例集を作って終わらせず、部署別・学校別にどの類型が多いかを検証し、研修と対応基準を更新します。心理的安全性と安全配慮義務は、理念ではなく記録と停止手順で守るものです。
結語 丁寧な行政と、無限に耐える行政は違います
住民や保護者の声を聞くことは必要です。ですが、聞くことと、壊されることは違います。
判断軸は単純です。職員が「ここから先は組織対応に切り替える」と言えるかどうかです。岡山県の基本方針が本物になるかは、最初の悪質事案で職員を一人にしない運用ができるかにかかっています。
【出典】
