2026.03.30

宅配業のカスハラ対策が具体化。厚労省がマニュアル・動画・ポスターをそろえた意味|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(宅配業編)等を作成しました


厚労省が宅配業向けのカスハラ対策マニュアルを公表

厚生労働省は3月27日、宅配業を対象にした「業種別カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(宅配業編)」を公表しました。

あわせて、周知啓発用のポスター、ステッカー、研修動画も作成したとしています。制度だけではなく、現場が実際に使うための道具まで出してきた点が今回の特徴です。


背景は法改正 令和8年10月1日から全事業主の義務へ

厚労省は、カスタマーハラスメント対策について、改正労働施策総合推進法の施行により、令和8年10月1日から全ての事業主の義務になると説明しています。

つまり今回は、努力目標の紹介ではありません。義務化を前に、宅配業という具体的な業種で、何を準備すべきかを先に可視化した動きです。


宅配業共通の対応方針 「説明しても納得されなければ毅然と対応」

マニュアルでは、宅配業におけるカスタマーハラスメントへの共通方針も示されています。

そこでは、顧客に便利で快適なサービスを提供するために真摯に取り組む一方で、暴力的な言動や理不尽な要求、繰り返される根拠のない主張など、社会通念上許容される範囲を超えた行為を受けた際は、事情を十分説明しても理解や納得が得られない場合、労働者の働く環境を守るため企業として毅然と対応するとしています。

ここで引かれている線は明確です。顧客対応の丁寧さと、働く側の我慢は同義ではないということです。


マニュアルの中身 実態調査と企業ヒアリングを踏まえて整理

厚労省によると、このマニュアルは、宅配業におけるカスタマーハラスメントの実態調査と、業界内企業へのヒアリングを踏まえて作成されています。

代表的なカスタマーハラスメント行為や類型に対する対応方法を示すだけでなく、企業が具体的に取り組むべき対策や、実際の取組事例も掲載しているとされています。

つまり、抽象的に「気をつけましょう」と言う段階ではなく、どの類型にどう反応し、社内でどう整備するのかまで踏み込んでいます。


ポスター・ステッカー・研修動画まで整備 現場運用に落とし込む設計

今回公表されたのはマニュアルだけではありません。営業所や社用車などに掲示する周知用ポスター、ステッカーのほか、マニュアルの内容や対応方法を解説した研修動画も作成されたとしています。

掲載先は、厚労省が運営するハラスメント対策の総合情報サイト「あかるい職場応援団」です。現場の掲示物と研修素材までセットにしたのは、カスハラ対策を人事部だけの話で終わらせず、配達現場まで持ち込むためだと読めます。


論点 義務化の前に問われるのは、方針の有無ではなく運用の具体性

カスタマーハラスメント対策は、方針を作っただけでは回りません。現場では、説明しても引かない相手にどう対応するのか、誰が判断するのか、どこで業務を止めるのかが問われます。

今回の宅配業向けマニュアルが持つ意味は、まさにそこです。業種の特性を踏まえた共通方針を出し、対応方法と周知物までそろえたことで、対策を「理念」から「運用」に移したと言えます。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 カスハラ対策はスローガンではなく、止める手順で決まる

この発表の本質は、カスタマーハラスメントをなくしたいという意思表明ではありません。説明しても理解されない時、企業がどこで線を引き、誰を守るかを業界として共有し始めたことです。ここも運用で決まります。

次の一手は3つです。
①初動:暴言、理不尽要求、根拠のない主張の反復などを、現場で迷わず記録できるようにします。日時、相手の言動、対応経過を残し、必要に応じて上司や本部に即時エスカレーションします。
②通報設計:配達現場や営業所からすぐ相談できる窓口を整え、不利益取扱い禁止を明文化します。カスハラ対応を個人の忍耐や経験に任せる運用を止める必要があります。
③再発防止:方針掲示だけで終えず、研修動画、ロールプレイ、掲示物、社用車内の周知まで一体で回します。心理的安全性と安全配慮義務は、被害後の慰労ではなく、現場が一人で抱え込まない設計で守るものです。


結語 顧客第一を掲げるだけでは、働く側を守れない

宅配業は、顧客接点の最前線です。だから「丁寧に対応する」は必要です。ですが、その言葉が現場の無限の我慢を意味し始めた時、組織は働く人を切り捨てます。

判断軸は単純です。説明した上で、それでも線を越えてきた相手に、企業が本当に止まれるかどうかです。カスハラ対策の成熟は、マニュアルを作ったことではなく、現場が「ここで止めていい」と知るところから始まります。

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