2026.05.13

国家公務員のカスハラ対策が始まる。人事院が示した「認定3要件」と苦情との境界線|一般社団法人クレア人財育英協会

人事院が国家公務員向けのカスハラ対策規則を制定 10月1日施行へ

人事院は、国家公務員への理不尽な要求などのカスタマーハラスメントを防ぐため、新たな規則を制定したと報じられています。

施行日は10月1日です。事業者にカスハラ対策を課す改正労働施策総合推進法の施行時期に合わせ、国家公務員の職場環境改善を図るとされています。民間だけではなく、公務の現場でも「耐える側」でいることをやめる制度が動き始めた形です。


人事院が示した認定3要件 苦情なら何でもカスハラではない

新規則では、公務員へのカスハラと認定するための3つの要件が示されたとされています。

要件は、①行政サービスの利用者による言動であること ②社会通念上許容される範囲を超えること ③職員の人格や尊厳、勤務環境が害されること、です。

この3つをすべて満たす場合にカスハラと認めるとされており、人事院は「行政への苦情すべてがカスハラに該当するわけではない。認定は抑制的に行う」としています。ここで引かれているのは、行政への不満や要望と、職員の尊厳を壊す行為を同じにしない線です。


各府省に義務づけられるのは、研修・規定・相談体制の整備です

記事によると、新規則では各府省に対し、職員への研修、部内規定の策定、相談体制の構築などを義務づけるとされています。

つまり、「困ったら現場で何とかする」では終わりません。対応の手順、相談の流れ、判断の基準を組織として持つことが求められます。公務員個人の忍耐ではなく、各府省の管理責任として整理された点が重要です。


問題行為の具体例 暴力だけでなく土下座強要やSNS投稿も含まれる

人事院が示した具体例としては、物を投げつけるといった身体的な攻撃のほか、土下座の強要や、SNSへの職員のプライバシー情報の投稿などの精神的な攻撃、そして同じ質問を繰り返すなどの執拗な言動が挙げられたと報じられています。

ここで見えるのは、カスハラを暴行だけに限定していないことです。時間を奪う、人格を傷つける、ネットでさらす。そうした行為まで含めて、働く環境を壊すものとして扱う考え方が明確になっています。


対象になり得る相手は広い 市民だけでなく事業者、報道機関、議員も

記事では、市民のほか、事業者、報道機関、地方自治体、議員らの言動も対象になり得るとされています。

この点は重いです。公務の現場にかかる圧力は、窓口対応の住民だけから来るわけではないからです。取材、要請、議会対応、他機関とのやり取りまで含めて、公務員が理不尽にさらされる場面を制度の射程に入れたということです。


論点 公務員は「行政の顔」ではあっても、理不尽を受け続ける装置ではありません

行政サービスには苦情がつきものです。制度への不満、対応への不信、説明不足への怒り。それ自体は、行政が受け止めなければならない声でもあります。

ですが、その声が土下座の強要や執拗な拘束、人格攻撃に変わった時まで、受け止め続ける義務はありません。今回の規則が示したのは、公務員は批判の受け皿であっても、尊厳を差し出す義務までは負わないという当たり前です。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 公務の現場ほど「どこで止めるか」を先に決めるべきです

この件の核心は、カスハラを禁止したことではありません。苦情対応とカスハラ対応の境界を、人事院が制度として定義し始めたことです。ここも運用で決まります。

次の一手は3つです。
①初動:威圧的言動、長時間拘束、土下座強要、SNS投稿などがあった時は、日時、相手、発言内容、対応経過を記録し、現場の担当者だけに抱え込ませないこと。
②通報設計:各府省は、職員がすぐ相談できる窓口と不利益取扱い防止を明文化し、上司が「もう少し耐えて」で止める構造を壊すこと。
③再発防止:研修、部内規定、事例共有を通じて、「どの苦情は受け止めるべきか」「どこで対応を中断し、外部対応に切り替えるか」を現場まで落とし込むこと。心理的安全性と安全配慮義務は、理念ではなく停止権限で守るものです。


結語 カスハラ対策の成熟は、苦情を敵視することではなく、理不尽に線を引けることです

公務員を守ると言うと、「苦情を封じるのか」と受け取る人もいます。ですが、今回の規則は逆です。苦情とカスハラを混ぜないために、線引きを制度化したのです。

判断軸は単純です。その言動が、行政への意見なのか、それとも職員の人格や勤務環境を壊すものなのかです。国家公務員のカスハラ対策が問うのは、行政の強さではなく、理不尽に対する節度です。


【出典】

公務員へのカスハラ、人事院が認定3要件を提示「苦情すべてが該当するわけではない」

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