2026.05.18
佐世保海保のパワハラ処分。「新聞をとっていない」部下への家庭環境侮辱が越えた指導の境界線|一般社団法人クレア人財育英協会
佐世保海上保安部の男性職員を減給処分 職員2人へのパワハラを認定
長崎県の佐世保海上保安部は、職員2人に対して威圧的な言動などのパワーハラスメントをしたとして、59歳の男性職員を減給の懲戒処分にしました。
処分は5月15日付で、内容は減給10分の1を2カ月です。問題となった行為は、2025年7月から9月までの間に行われたとされています。
直属の部下には「文章力がないのは仕方ない」 家庭環境への侮辱と判断
佐世保海保によると、この男性職員は、直属の部下に書類作成事務を指導する際、家で新聞をとっていたかを尋ねました。
部下が「とっていない」と答えると、「文章力がないのは仕方ない」と発言したとされています。佐世保海保は、この発言を家庭環境についての名誉棄損や侮辱と思われる言動として扱っています。
ここで問題なのは、文章力への指導ではありません。業務能力の指摘を、本人の家庭環境への評価にすり替えたことです。指導の場で、相手の育ちや家庭を持ち出した瞬間、言葉は教育ではなく人格攻撃に変わります。
別の職員には、後輩の前で「少しは仕事をしろ」と威圧的発言
また、別の職員に対しては、後輩職員がいる前で「すぐに片付く簡単な作業に時間をかけて、少しは仕事をしろ」と威圧的な言動を行ったとされています。
この発言も、単なる注意ではありません。周囲に後輩がいる場で責め立てることで、本人の評価や尊厳を下げる効果を持ちます。
職場の指導は、本人に改善点を伝えるためにあります。周囲の前で相手を小さく見せるために行われるなら、それは指導ではなく見せしめです。
男性職員は反省 海保は再発防止に万全を期すとコメント
男性職員は「行き過ぎた行為であったと深く反省しています」と話しているとされています。
佐世保海保の太刀川征利部長は、「再発防止に万全を期す」とコメントしています。
ただし、再発防止は本人の反省だけでは足りません。なぜこうした発言が指導として出てしまったのか。周囲は止められたのか。職場として検証すべき点は残ります。
論点 能力指導と人格攻撃の境界線は、どこにあるのか
業務上、書類作成能力や作業の進め方を指導することは必要です。海上保安部のように正確さや迅速さが求められる職場では、厳しい指摘が必要な場面もあるでしょう。
しかし、能力の不足を家庭環境に結びつけたり、後輩の前で侮辱的に責めたりする必要はありません。業務上の改善点を伝えることと、相手の人格や背景を傷つけることは別です。
指導が成立するのは、相手が次に何を直せばよいか分かる時です。恥をかかせるだけの言葉は、改善ではなく萎縮を生みます。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 「厳しい指導」を家庭や人格に踏み込ませない
この件の核心は、言葉が少し強かったことではありません。業務上の指導が、家庭環境への侮辱や公開の場での威圧に変わっていた点です。ここも運用で決まります。
次の一手は3つです。
①初動:侮辱的発言、家庭環境への言及、後輩や同僚の前での威圧的叱責があった時点で、日時、場所、発言内容、同席者を記録化します。
②通報設計:直属上司が加害側でも相談できる窓口と内部通報を整え、不利益取扱い禁止を明文化します。階級や職務経験の差がある職場ほど、別ルートの相談先が必要です。
③再発防止:管理職や指導担当者に、業務指導で扱ってよい内容と、人格・家庭・属性に踏み込んではならない線を具体的に教えます。心理的安全性と安全配慮義務は、現場の厳しさを理由に後回しにしてはいけません。
結語 指導は相手を直すためにあり、恥をかかせるためにはない
「文章力がない」と指摘することと、「新聞をとっていない家庭だから仕方ない」と言うことは、まったく違います。
判断軸は単純です。その言葉が相手の行動改善につながるのか、それとも相手の背景や尊厳を傷つけるだけなのかです。職場の厳しさを守るなら、まず指導の言葉を汚さないことです。
【出典】
