2026.10.21

ハラスメント調査で話が食い違うとき、どちらかを急いで選ばない進め方

この記事の要点

証言が一致しないときは、人数や肩書きで真偽を決めません。「何が起きたか」「どう受け止めたか」「まだ確認できないこと」を分け、事実の確認と当面の支援を並行して進めます。

「会議で怒鳴られた」と相談する社員。一方、上司は「仕事の遅れを注意しただけ」と話す。両方の話を聞いた担当者が、どちらを信じればよいか分からなくなる場面です。

ハラスメント調査は、話のうまい人を選ぶ仕事ではありません。相談者のつらさを受け止めることと、具体的な事実を公平に確認することは両立します。最初から白黒をつけるより、どこで話が食い違っているのかを小さく分けると、次に確かめることが見えてきます。

「怒鳴った」「指導した」を、そのまま対立させない

二つの説明は、同じ出来事を違う言葉で表しているかもしれません。上司が大きな声で指導したことは一致していて、その必要性や言葉の受け止め方が違う場合もあります。発言自体があったかどうかで食い違う場合とは、確認する内容が変わります。

例えば「月曜の朝会で、進捗の遅れについて話をした」までは双方が認めている。一方、「もう任せられない」という発言、机をたたいたこと、叱責が続いた長さについては説明が異なる。ここまで分かれば、次の面談で何を聞くかが具体的になります。

厚生労働省のあかるい職場応援団でも、当事者と第三者の意見が一致するとは限らないことが示されています。意見を無理に一つにするのではなく、合理的に判断するための情報として扱うという考え方です。

食い違いを小さく分けて確かめる
出来事を分ける日時、場所、発言、動作、頻度を切り分ける
資料と照合する同席者、当時の記録、業務上の経緯を確認
根拠と未確認を残す何を確認でき、何が判断できないかを明示

面談の最初は、誘導する質問をしない

相談者には「そのとき、どんな言葉がありましたか」「その前後には何が起きましたか」と、本人の言葉で話してもらいます。「ひどい上司ですね」と同調して結論を先取りすると、担当者の評価と本人の説明が混ざります。

相手方にも、否定を前提に追及するのではなく、出来事の順序や発言の内容を尋ねます。「指導だった」と説明されたら、「何を改善してほしかったのか」「どのように伝えたか」「それまでにどんな支援をしたか」へ進みます。目的が業務指導でも、手段や程度は別に確かめる必要があります。

ただし、相談者へ細部を一度に思い出させようとするのは避けます。正確な時刻が分からないなら、「朝会の前後」「締切の前日」などの手掛かりからたどれます。話せない箇所を、その場で埋めさせないことです。

質問を変えると、得られる情報が変わる
避けたい聞き方 置き換える質問 確かめたいこと
大声だったんですよね? 声や周囲の状況を覚えていますか 本人が認識した状況
なぜ言い返さなかったの? その場では、どんな対応ができそうでしたか 立場や行動の制約
指導だから問題ないですね? 何を、どの言葉で、どれくらい伝えましたか 目的と手段の区別
みんなも同じ意見ですか? 直接見たり聞いたりした人はいますか 伝聞と直接の認識

記録は「説明」と「担当者の評価」を別の欄に

面談記録に「上司による悪質な叱責」とだけ書くと、何が起きたのかが後から分かりません。できるだけ、発言や動作、日時、相手、情報の出どころを残します。録音がある場合も、抜き出された一部分だけでなく、前後関係が分かる範囲を確かめます。

本人が話した内容を要約したなら、要約であることが分かる形にします。逐語の記録と、担当者が言い換えた文章を混ぜないためです。面談の最後に「この理解で合っていますか」と確認し、訂正があったら元の記録を消して分からなくするのではなく、変更の経過も残します。

以下は、架空の会議の場面で使う記録例です。実際の調査結果や認定を示すものではありません。

事実確認表の例
項目 集まった情報 次に確認すること
会議の実施 双方が月曜朝の会議と説明 予定表や議事メモ
具体的発言 一方は発言あり、他方は否定 前後の会話、直接聞いた人
業務の遅れ 期限を過ぎた点は一致 依頼内容、支援、変更指示
机をたたく動作 説明が一致しない 位置関係と目撃の有無
相談者の不安 次の会議への参加が不安 当面の支援と本人の希望

この表の役割は、誰かを追い詰めることではありません。「分からない」がどこにあるかを共有し、同じ質問を何度も繰り返す負担を減らすためです。表に埋まらない欄があっても、推測で補わないようにします。

第三者には「聞いた話」と「見たこと」を分けてもらう

同席者へ確認する場合は、実際にその場で認識したことを尋ねます。「普段から厳しい人だと思います」という印象と、「その会議で、この発言を聞いた」という情報は、役割が異なります。

「見ていない」という回答も、直ちに出来事がなかった証拠にはなりません。途中で席を外していたのか、別の作業をしていたのか、会議の最後までいたのかを確かめます。一方、見たと話す人にも、位置や時点、後から他の人と話した内容を混ぜていないかを丁寧に聞きます。

人数が多い側を正しいとする多数決ではありません。同じ話を別の人から聞いた3人と、その場で直接聞いた1人では、情報の出どころが違います。人数だけを積み上げず、一つずつ根拠を確かめます。

聞く相手を広げすぎると、相談内容が職場へ広まるおそれがあります。必要性のある人に絞り、守秘と不利益な取扱いをしないことを伝え、共有範囲について相談者にも説明します。

確認が終わるまで、困っている人を待たせない

結論が未確定でも、仕事上の不安は今日あります。例えば次の会議に第三者が同席する、当面の連絡窓口を調整する、面談の場所を変えるなど、本人の意向を聞いて実行できる対応を検討します。

その措置は、相手方に問題があったと認定した処分とは区別して説明します。相談した人の仕事を一方的に外したり、不利益になる異動を当然のように求めたりしないことも大切です。両当事者への不用意な情報共有や、報復につながる言動にも注意を払います。

調査に時間がかかるなら、「あと何を確認する予定か」「次はいつ連絡するか」を伝えます。結論を言えないことと、連絡しないことは別です。期限を置いた連絡が、相談者の置き去りを防ぎます。

「確認できない」を「なかった」に置き換えない

調査の結果、ある発言を確認できなかったとしても、それだけで相談者が虚偽を述べたとはいえません。一方、相談があった事実だけで相手方の問題行為を認定することもできません。確認できたこと、食い違いが残ること、判断の根拠を分けて残します。

厚生労働省の資料は、ハラスメントがあったと判断できない場合でも、事態の悪化を避ける対応が必要な場面を紹介しています。指導方法の改善や業務分担の見直しなど、確認できた職場の課題に取り組む余地はあります。

懲戒などの判断は、担当者一人の印象で進めず、就業規則、確認した事実、措置の相当性を踏まえて権限のある部門で検討します。判断が難しいときは、記録と争点をまとめて弁護士などにつなぎます。

KCPの視点:落ち着いて聞く力を、根拠を残す力へ

相談対応を学ぶ意味は、その場で正解を言えるようになることだけではありません。結論が出ない場面で、次に何を確認するかを選び、本人への配慮を続け、適切な役割へつなぐ力を育てることにもあります。

担当者の研修では、同じ出来事について異なる説明を読む演習が役立ちます。まず「一致している事実」に線を引き、次に「違う説明」を分け、最後に追加の質問を考える。正解のラベルを早押しするより、確認の過程を比べる方が実務に近い練習になります。

Q. 録音がなければ、相談を受け付けられませんか?

A. 録音がないことを理由に受付を断る必要はありません。本人の説明、当時の記録、同席者など、確認できる情報を探します。最初から十分な証拠をそろえる負担を相談者だけに求めないことです。

Q. 両者を同じ部屋で話し合わせた方が早いですか?

A. 最初から対面させると、立場の差や不安で話しにくくなる場合があります。まず別々に聞き、目的と必要性、本人の意向や安全への配慮を踏まえて方法を選びます。

調査の質は、結論を急がない段取りに表れる

話が食い違ったら、信じる側を決める前に、出来事を小さく分けてください。何が一致し、何を確かめ、誰を支えるか。その3つを見失わなければ、判断の公平さと相談者への配慮を一緒に進められます。

あわせて読みたい:ハラスメント相談の引継ぎは何を残す?担当者不在でも止めない仕組み

相談を聞き、次の対応につなぐ力を学ぶ

一般社団法人クレア人財育英協会では、雇用クリーンプランナー(KCP)の育成・認定を行っています。職場の相談をどう受け止め、誰と連携して対応するか。担当者としての学びを、日々の記録や職場の仕組みへつなげていきましょう。

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