2026.02.19

「感染対策の叱責」が看護師を追い詰めた。大津赤十字病院パワハラ提訴が問う“医療安全と心理的安全”の両立|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】コロナ検査で叱責された看護師が自殺 パワハラ訴え遺族が病院提訴


大津赤十字病院の看護師自死、遺族が日本赤十字社を提訴──請求は約1億800万円

大津赤十字病院(大津市)で勤務していた看護師の女性(当時41)が、うつ病を発症して自死したのは救命救急医のパワーハラスメントが原因だとして、遺族が2026年2月18日、病院を経営する日本赤十字社に約1億800万円の損害賠償を求めて大津地裁に提訴したと報じられました。

訴状によれば、女性はコロナ禍の2021年3月に救急外来で叱責を受け、その後精神科受診、欠勤を経て4月に自宅で命を絶ったとされています。遺族側は、当該医師の言動がパワハラに当たること、さらに病院が過去の同様の問題を踏まえた対応を怠り容認してきたことを理由に、組織としての責任を問う構図です。


発端はPCR検査対応──「何をしているんだ!感染対策がなっていない」と怒鳴られる

報道によると、2021年3月8日、呼吸器内科の看護師だった女性は、コロナ感染の疑いがある患者のPCR検査のため、患者を救急外来へ連れて行きました。感染対策の防護服を着用していたものの、手袋をしたまま処置室のカーテンを触ったことを、救急科部長だった男性医師に咎められたとされます。

男性医師は「何をしているんだ!感染対策がなっていない」と怒鳴り、「お前がコロナを広げるんや!救急は大変なんやぞ」「汚いやろ!壁に触るな」などとも言ったとされています。さらに女性が退室する際、感染対策マニュアル映像を大音量で流したという記載もあります。

医療現場では感染対策が重大であることは当然です。ただし、指導の必要性と、怒鳴り声や人格を追い詰める言動は別問題です。危機対応の緊張が高いほど、言葉が暴力化しやすい。今回の訴えは、その危うい境界を突いています。


精神科受診から欠勤、そして自死──「サイレンで全身が震える」

女性は2021年3月11日に精神科を受診し、15日以降は欠勤したとされています。その後、4月18日に自宅で命を絶ったと報じられました。夫は取材に「パワハラを受けてから、救急車のサイレンを聞くだけで全身が震え、見るに堪えない状況だった」とコメントし、組織の体質と管理体制の問題を明らかにして再発防止につなげてほしいと述べています。

医療従事者にとって救急車のサイレンは職務の一部です。その音がトラウマになるほどの状態は、単なるストレスではなく、強い心理的負荷が残ったことを示唆します。


労災認定は「総合判断」──感染症リスクの負荷も考慮

遺族が行った労災申請に対し、滋賀労働保険審査官は2024年5月、労災と認めたと報じられています。判断では、男性医師の叱責は「業務指導の範囲内」としつつも、心理的負荷を与えるものだったと指摘したとされています。

また、2023年9月に認定基準として追加された「感染症リスク」の負荷も考慮した総合判断だったとされます。コロナ禍の医療現場が、通常の医療安全に加えて、感染リスクという極端な緊張を背負っていたことが、心理的負荷の評価にも影響した形です。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──「医療安全」と「心理的安全」を同時に守る設計へ

この事案の難しさは、感染対策という正義が、指導の暴力性を覆い隠しやすい点にあります。「感染対策のためだから厳しく言って当然」となった瞬間、現場は報告・相談・確認を避けるようになります。結果として、医療安全そのものが損なわれます。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点では、再発防止の焦点は次の3点です。

第一に、危機時の指導言語を標準化することです。感染対策の是正は必要でも、怒鳴ることは必要ではありません。現場が使える短いフレーズ、指摘の手順、声量の基準、退避のルールを整備し、感情に任せない指導を仕組みにする必要があります。

第二に、既知のリスクを放置しない管理体制です。遺族側は「過去にも当該医師の言動で精神障害を生じた看護師がいたのに、対応を怠り容認してきた」と主張しています。もしこれが事実なら、組織の問題は“1回の叱責”ではなく、繰り返しの兆候を見逃したガバナンスにあります。医療機関は、問題行動が報告された時点で、配置・監督・教育・面談をセットで動かす必要があります。

第三に、被害者が孤立しない相談導線と初動です。医療現場は上下関係が強く、忙しさの中で「言っても変わらない」が生まれやすい。匿名相談、外部窓口、報復防止、そして相談が入った瞬間に被害者保護を先に動かす初動。ここが整っていないと、悲劇は繰り返されます。


結語:「厳しさ」の名で人を壊す組織は、最後に患者を守れなくなる

感染対策の徹底は医療の生命線です。しかし、その徹底が怒鳴り声と侮辱で実行されると、職員は萎縮し、ミスや異常の報告が遅れ、患者の安全も危うくなります。医療現場に必要なのは、恐怖による統制ではなく、安心して正しい行動を取れる心理的安全性です。

本件は提訴段階であり、裁判で事実関係が争われていきます。ただ、すでに労災認定があり、遺族は「組織の体質と管理体制の問題」を問うています。一般社団法人クレア人財育英協会は、医療機関が危機時ほど人権と安全配慮を両立できるよう、指導の標準化、相談導線、ガバナンスの再設計を支援していきます。

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