2026.10.23

障害者雇用のハラスメント相談、提訴報道から考える配慮と指導の分け方

この記事の要点

仕事の改善を求める話と、働くうえで困っていることを減らす話は、両方必要です。ハラスメントの相談があったら、言動の確認、必要な配慮、本人の安全や体調への対応を分け、どれか一つの結論が出るまで全部を止めないようにします。

「配慮しているのだから、これくらい我慢してほしい」。そんな言葉が出たとき、職場の話し合いは仕事の改善から離れてしまいます。一方で、「配慮が必要な人には、仕事の注意をしてはいけない」と考えるのも違います。

障害者雇用の現場で大切なのは、本人に求める仕事と、その仕事を進める際の支障を別々に確認することです。2026年10月22日の提訴報道をきっかけに、指導と配慮を混ぜない相談対応を考えます。

報じられたのは「提訴」。裁判所の認定とは分けて読む

読売新聞オンラインは、特例子会社の元社員が、上司らの言動などによって体調が悪化し退職に追い込まれたとして、会社側に損害賠償を求めて10月21日に提訴したと報じました。

訴状では、上司らから言動を繰り返し責められたことや、同僚から退職を促すような言葉を受けたことなどが主張されているとされています。会社側は、訴状が届いておらず内容を確認できないため回答を差し控える、という趣旨のコメントをしています。

現時点の報道から、主張された言動がすべて事実と認定された、会社の責任が確定した、と書くことはできません。ここからは当該職場の事情を推測せず、一般の職場で似た相談を受けた際の対応を整理します。

同じ面談で話しても、三つの問題は分けて残す

例えば、作業の手順を忘れることが増えた社員が「皆の前で責められるのがつらい」と相談した場面を考えます。「手順を守れていないのだから仕方ない」と答えると、指導の方法への訴えを聞き落とします。

逆に、上司の言い方だけを確認して作業上の困りごとを放置すれば、翌日も同じ場面が起こるかもしれません。何が言われたか、仕事のどこで困っているか、いま安全に働けるかを分けて聞きます。

相談を一つの結論に押し込めない
言動の確認誰が、いつ、どこで、何をしたか
仕事の支障どの工程が、どの条件で難しいか
当面の支援体調、安全、相談先、次の確認日

「ハラスメントかどうか、調べ終わるまで何もできない」という進め方は避けたいところです。必要な事実確認を進めながら、相談する時間を設ける、伝え方を調整するなど、当面の対応を検討できます。どの措置が適切かは本人の希望や職場の状況を確かめて決めます。

合理的配慮は、上司が善意で決め切るものではない

厚生労働省の合理的配慮指針では、本人との話し合いを通じて措置を検討し、意向を尊重することが示されています。希望した方法が難しい場合も、過重な負担にならない別の方法を含めて話し合います。

例えば「口頭の説明だけだと順序を取り違えやすい」という困りごとなら、指示を短く区切る、手順を見える場所に置く、確認する時間を決めるといった方法が考えられます。ただし、同じ障害名だから同じ方法でよいとは限りません。

「前の職場でもこうしていた」「別の社員には効いた」という理由だけで決めず、本人がどこで困り、試した方法で何が変わったかを確認します。配慮の内容が一度決まっても、仕事や体調、担当者が変われば見直す余地があります。

指導と配慮を分けて話す例
確認したいこと 曖昧な伝え方 具体的な話し方の例
仕事の基準 きちんとやって 出荷前に、この3項目を確認してください
困っている工程 なぜ毎回できないの どの段階で順番が分からなくなりますか
支援の方法 あなたのために減らした 説明方法を二つ試し、合う方を相談しませんか
言動への訴え 注意を悪く受け取っただけ どんな言葉を、どの場面で受けましたか
見直し 配慮はもうしている 今の方法で困る点は残っていますか

周囲の「不公平だ」を、本人への圧力にしない

配慮に伴って業務の分担が変わると、周囲の負担への対応も必要です。ただ、その不満を「あなたのせいで皆が大変」と本人へ向けても、仕事の割り振りの問題は解決しません。

管理職が確認したいのは、どの業務が誰に何時間分増えたのか、分担を見直せるか、必要な説明が届いているかです。本人の診断名や私生活を広く共有することと、周囲が仕事を進めるために必要な運用を伝えることは分けます。

例えば「朝の指示は担当リーダーが書面で渡す」「急ぎの変更は一度に重ねず優先順位を示す」といった仕事上のルールなら、共有する範囲を整理しやすくなります。本人の情報をどこまで伝えるかは、意向と必要性を確認して慎重に決めます。

相談先が指導する本人だけなら、別の入口をつくる

困っている相手が直属の上司で、その上司にしか相談できない仕組みでは、話を持ち出しにくくなります。人事担当や別の責任者など、状況を聞ける経路を示しましょう。

相談担当者も、その場で上司の責任を断定したり、本人の受け止め方の問題と決めたりせず、具体的な言動と経緯を確認します。健康面の支援や必要な専門家への連携は、事実確認とは別に検討します。

聞き取りの後は、次に誰が何を確かめ、いつ連絡するかを伝えます。「担当へ回しておきます」で終わると、本人には何も動いていないように感じられることがあります。まだ決まっていないことも含めて、次の連絡の約束を残すことが大切です。

KCPの視点:制度の名前を知ることから、会話を整えることへ

合理的配慮やハラスメントという言葉を覚えても、相談の場で「つまり誰が悪いのか」を急ぐと、必要な支援を見失います。担当者に求められるのは、言動、仕事の条件、当面の安全を切り分けて、適切な人につなぐ力です。

社内の練習では、一人が相談者役、もう一人が担当者役になり、最初の5分で何を聞くかを試してみてください。責任の結論を出さなくても、困りごとの具体化と次の対応の説明ができたかを振り返ると、学びが実務に近づきます。

Q. 配慮をしている社員には、業務上の注意を控えるべきですか?

A. 必要な業務の説明や改善の話し合いは行います。ただし、本人が理解し実行できる伝え方を考え、人格否定や退職を迫るような言葉とは分けます。

Q. 本人の希望どおりの配慮を実施できない場合は?

A. できない理由を確認し、代わりに実施できる方法を本人と話し合います。「無理です」で終わらず、仕事上の支障をどう減らせるかを検討し、決めた内容を伝えます。

明日の面談では「何が難しいか」を一段具体的に

「配慮している」「指導している」だけでは、お互いの認識はそろいません。どの場面、どの言葉、どの工程の話なのか。そこを具体的にすることが、働きやすさと仕事の質を同時に考える出発点です。

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相談を聞き、次の対応につなぐ力を学ぶ

一般社団法人クレア人財育英協会では、雇用クリーンプランナー(KCP)の育成・認定を行っています。職場の相談をどう受け止め、誰と連携して対応するか。担当者としての学びを、日々の記録や職場の仕組みへつなげていきましょう。

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