2026.05.23
広島大学のセクハラ減給処分から学ぶ、指導とハラスメントの境界線と再発防止策|一般社団法人クレア人財育英協会
広島大学が指導学生へのセクシュアル・ハラスメントで教授を減給処分に
広島大学は、2026年5月22日付で、50歳代の男性教授に対する減給の懲戒処分を行ったことを公表しました。
本事案は、当該教授が指導する学生に対して「就学のための環境を悪化させる言動」を行ったと認定されたものです。大学側はこれを就業規則に違反するハラスメント行為(セクシュアル・ハラスメント)と判断しました。
教育機関として、被害者及び関係者への謝罪を行うとともに、各部局でのハラスメント研修の徹底など、より一層の意識啓発を図り再発防止に努める姿勢を示しています。
処分の背景:「熱心な指導」に隠れた就学・就業環境の悪化リスク
今回の処分理由は、被処分者の言動が広島大学職員就業規則に定める「ハラスメントの防止」に違反し、大学の名誉や信用を著しく傷つけたというものです。
注目すべきは、単なる私的な場での行為ではなく「指導する学生に対して」行われたという点です。これは企業における「上司から部下への指導」と全く同じ構造を持っています。
指導する側は「教育的指導の一環」「コミュニケーションのつもり」であっても、受け手側が就学(就業)環境を著しく悪化させられたと感じ、客観的にも不適切と認められれば、それは明確なハラスメントとして懲戒の対象となります。
被害者の保護を徹底:詳細情報の非公表による二次被害の防止
広島大学は今回の公表において、ハラスメント行為の詳細や被害者に関する情報の公表を差し控えると明記しています。
これは、被害者のプライバシーを侵害したり、好奇の目に晒されるといった「二次被害」を与えるおそれを未然に防ぐための適切な危機管理措置です。
ハラスメント事案を社内外に公表する際、事実関係の透明性をどこまで担保するかは人事担当者を悩ませる課題です。しかし、いかなる場合でも被害者の安全と心理的ケアを最優先にするという原則は、全ての組織で共有されるべきスタンスです。
論点:減給処分が意味するものと「研修の徹底」の真の目的
今回の処分量定は「減給」でした。事案の性質や程度、過去の判例などを総合的に勘案した結果と考えられますが、処分を下すこと自体がゴールではありません。
大学側が再発防止策として「各部局等におけるハラスメント研修実施を徹底する」と明言している通り、重要なのは「なぜその言動がハラスメントに該当するのか」を組織全体で理解し直すことです。
特に権力勾配(パワーバランス)の強い環境では、自分の言動に対する他者からのフィードバックが入りにくくなります。研修を通じて、無意識のバイアスや「昔は許されていた」という古い価値観をアップデートする機会を定期的に設けることが不可欠です。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点:「指導」の履き違えを防ぐ組織づくり
今回の事案から企業人事が学べる価値は、指導的立場にある人間の「無自覚なハラスメント」をいかに防ぐかにあります。権力構造が固定化しやすい職場において、人事・経営層が講じるべき次の一手は以下の3つです。
- 「指導とハラスメントの境界線」の明確化:
抽象的な精神論ではなく、自社の業務に即した具体的なNG事例(アウトな言動)をガイドライン化し、管理職研修で共有します。 - 被害者保護を前提とした相談ルートの構築:
「相談したら自分が不利益を被るのではないか」という不安を払拭するため、相談者の秘匿性と不利益取扱いの禁止を明文化し、実効性のある窓口を運用します。 - 処分の基準と二次被害防止方針の策定:
いざ事案が発生した際、場当たり的な対応にならないよう、事案の公表基準(どこまで伏せるか)や被害者ケアのプロセスをあらかじめ設計しておきます。
結語:安全な環境の提供は、組織の最も基本的な義務である
学生にとっての大学、従業員にとっての企業は、安心して学び、働ける環境であることがすべての前提です。指導という名目であっても、相手の尊厳を傷つけ、環境を悪化させる言動は決して正当化されません。
ハラスメント対策は、リスクマネジメントであると同時に、組織を構成する一人ひとりのパフォーマンスを最大化するための前向きな投資です。広島大学の事案を他山の石とし、自社の指導体制と相談環境を見直す契機とすべきです。
【出典】
教員の懲戒処分について | 広島大学
