2026.05.18
稲沢市消防士長の「自作ボードゲーム」パワハラ。断れば無視、35時間参加が示した職場支配|一般社団法人クレア人財育英協会
稲沢市消防本部で消防士長を停職処分 自作ボードゲームへの参加強要が問題に
愛知県稲沢市消防本部は、勤務時間中に自作のボードゲームで遊び、部下職員にも参加を強要したとして、40代の消防士長を停職1カ月の懲戒処分にしたと報じられています。
さらに、参加を断った職員を無視していたことも問題とされています。ここで問われているのは、ゲームの内容ではありません。上司の私的な遊びに、部下が断れない関係が作られていたことです。
勤務中や仮眠時間中に実施 業務日報の虚偽記載や口裏合わせも
記事によると、問題となったゲームは、勤務中や仮眠時間中に行われていたとされています。
消防士長は、業務日報への虚偽記載を指示したほか、発覚後には口裏合わせもしていたと報じられています。単に勤務中に遊んでいたという話ではなく、組織の記録と説明までゆがめようとした点が重いです。
部下ら9人も処分 中には35時間参加した職員も
ゲームに参加していた部下ら9人についても、戒告や文書訓告などの処分が行われたとされています。
参加した職員の中には、計35時間にわたってゲームに加わっていたケースもあったと報じられています。長時間に及ぶ参加が、本人の意思だけで説明できるのか。そこに、上下関係と職場の空気が入り込んでいます。
内部通報で発覚 断れば無視される関係は「遊び」では済まない
この問題は、内部通報を受けた消防本部の調査で発覚したとされています。
ゲームは、文字や数字のカードを組み合わせて「しりとり」のように遊ぶ内容で、消防士長が自作して署内に持ち込んだものだとされています。
しかし、問題はその遊びが楽しいかどうかではありません。断った職員を無視するなら、それはもうレクリエーションではなく、職場内の支配です。
弁護士の見解 参加強要と無視はパワハラに該当し得る
記事では、労働法に詳しい弁護士の見解として、ボードゲームへの参加強要と、参加を断った者を無視する行動は、上司から部下に対するものであり、優越的な関係を背景とした言動といえると紹介されています。
また、これらの行動には業務上の必要性や相当性がなく、労働者に身体的または精神的苦痛を与え、就業環境を害するものといえるため、パワハラに該当すると考えられるとされています。
一方で、ゲーム参加の強要や無視は、犯罪とまでは評価しにくいとも説明されています。ここで線引きされているのは、刑事事件になるかどうかと、職場のハラスメントとして許されるかどうかは別だという点です。
民間企業でも懲戒処分になり得る 鍵は就業規則と手続きです
記事では、民間企業で同様の事案が起きた場合でも、就業規則などに懲戒処分の根拠規定があれば、懲戒処分が有効と評価される可能性が高いと説明されています。
ただし、処分には手続きの適正性や、処分内容の合理性・相当性も必要とされています。
つまり、ハラスメントを処分するには、感情的に「許せない」と言うだけでは足りません。規程、調査、弁明の機会、処分の重さの整合性まで含めて整えておく必要があります。
部下は損害賠償を請求できる可能性もある
記事では、ゲームを強要されたことについて、部下が上司に対し、不法行為に基づく慰謝料を請求することが検討できるとされています。
また、自治体に対しても、職場環境を整備すべき安全配慮義務に違反したとして、損害賠償を請求することが検討できるとされています。
さらに、文書訓告などの処分が違法・不当である場合には、その処分によって受けた不利益を損害として請求できる可能性もあると説明されています。
論点 「遊び」でも断れないなら、それは業務外の支配になる
上司が遊びに誘うこと自体が、常に問題になるわけではありません。ですが、断ると無視されるなら、そこには自由な参加はありません。
職場のハラスメントは、大声や暴言だけで起きるのではありません。笑って参加しているように見えても、断った後の不利益や空気を恐れているなら、それはすでに支配です。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 「断れる関係」だったかを最初に見るべきです
この件の核心は、ゲームが勤務中に行われたことだけではありません。部下が本当に断れたのか、断った後に無視されない関係だったのかです。ここも運用で決まります。
次の一手は3つです。
①初動:勤務時間中や仮眠時間中の私的行為、参加強要、断った後の無視があった時点で、日時、参加者、指示内容、日報記載、口裏合わせの有無を記録化します。
②通報設計:上司が関与する私的強要でも相談できる内部通報ルートを整え、不利益取扱い禁止を明文化します。断った人が孤立する職場では、通報は出にくくなります。
③再発防止:勤務中の私的活動、日報記載、仮眠時間の扱い、上司の私的誘導を明確に禁止し、管理職研修で「断れる関係」を確認します。心理的安全性と安全配慮義務は、業務命令だけでなく、職場の空気にも及びます。
結語 楽しくなかった遊びは、職場の力関係を映します
本当に自由な遊びなら、断っても関係は壊れません。断った人を無視するなら、それは遊びではなく、上下関係を使った選別です。
判断軸は単純です。参加したかではなく、断れたかどうかです。職場で起きる私的な強要は、業務命令より見えにくい分だけ、深く人を縛ります。
【出典】
「断れば無視」40代消防士長の“自作ボードゲーム”に35時間付き合わされた部下も“懲戒処分”…上司の「法的責任」どこまで問える?
