2026.04.29
豊橋市がカスハラ基本方針を策定。「職員を守る」と明言した窓口対応はどこまで変わるか|一般社団法人クレア人財育英協会
【出典】愛知県豊橋市はカスタマーハラスメントに対する基本方針を策定しました
豊橋市がカスタマーハラスメント基本方針を策定 4月から窓口掲示を開始
愛知県豊橋市は、カスタマーハラスメントに対する基本方針を策定し、2026年4月から市役所の窓口などに掲示を始めたと公表しています。
市民や事業者からの意見や要望を真摯に受け止める一方で、過剰な要求や悪質なクレームが職員の心身を害し、行政サービスの低下を招きかねないとの認識を示した形です。丁寧な対応と無制限の我慢は別だと、市がようやく言葉にしたとも読めます。
豊橋市が示したカスハラの定義 線引きは3つの要件で整理
基本方針では、カスタマーハラスメントを、①市民や事業者などからの職員に対する言動であること ②職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えること ③職員の就業環境を害すること、この3つをすべて満たすものと定義しています。
具体例としては、大声や暴言、執拗なクレーム、長時間の居座りなどが挙げられています。つまり、単なる苦情や要望ではなく、相手の働く環境を壊す水準に達したものを、組織として止める対象にしたということです。
窓口対応はどう変わるのか 録音・録画、複数対応、中断と退去要請まで明記
市の対応として示されたのは、通話や窓口対応時に必要に応じて録音、録画を行うことです。
さらに、カスハラが疑われる言動があった際は複数人で対応し、不適切な言動が繰り返される場合には対応を中断して退去を求めるとしています。ここで重要なのは、職員個人の忍耐に任せないことです。対応の途中で「もうここで止める」という権限を、市が組織として持つと示したからです。
悪質な行為には警察通報や弁護士相談も 法的措置を含め厳正対応へ
基本方針では、暴行や傷害、脅迫、不退去などの悪質なものや、犯罪行為と判断した場合には、警察への通報や弁護士への相談など、法的措置を含め厳正に対応するとしています。
ここで線引きされたのは、「住民対応だから最後まで受け続ける」という古い前提です。公的機関であっても、犯罪や威圧の前で無条件に応対を続ける義務はないという姿勢が明文化されました。
今後は職員アンケートも実施へ 問われるのは方針の有無より実効性
豊橋市は今後、職員からアンケートを取るなどして実態を把握し、より実効性の高い対策を講じるとしています。
また、職員が安心して働ける環境を整備することで、質の高い行政サービスを提供できる体制を整えていくとしています。ここで見なければならないのは、ポスターを貼ったことではありません。実際に職員が「止めてもいい」と感じられるかどうかです。
論点 行政サービスを守るには、まず職員を守る側に立たなければなりません
自治体の窓口では、住民対応の名のもとに、理不尽な言動まで引き受ける空気が残りやすいです。ですが、その結果として職員が疲弊し、離職し、窓口が回らなくなるなら、守れていないのは職員だけではありません。行政サービスそのものです。
豊橋市の基本方針が持つ意味は、まさにそこです。カスハラ対策を職員保護の話で終わらせず、市民サービスの維持と結びつけたことで、ようやく組織の課題として扱い始めたと言えます。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点 基本方針は掲示より「止める運用」で評価されます
この件の核心は、基本方針を作ったこと自体ではありません。窓口職員が、実際に録音し、複数対応に切り替え、対応を中断し、法的対応につなげられるかどうかです。ここも運用で決まります。
次の一手は3つです。
①初動:大声、暴言、執拗な要求、長時間拘束があった時点で、記録を残し、単独対応をやめる手順を徹底します。
②通報設計:窓口職員がすぐ相談できる内部ルートと、不利益取扱い禁止を明文化します。止めた職員が「対応が悪い」と責められる構造を残してはいけません。
③再発防止:職員アンケート、対応事例の共有、研修を継続し、「どこで止めたか」「止めた後どうつないだか」を全庁で見える化します。心理的安全性と安全配慮義務は、理念ではなく停止手順で守るものです。
結語 役所の本気は、どこまで丁寧にするかではなく、どこで止まれるかで決まります
住民の声を受け止めることは行政の仕事です。ですが、その言葉が職員の尊厳や安全を削る行為に変わった時まで、受け止め続ける必要はありません。
判断軸は単純です。その窓口に「ここで対応を中断する」と言える制度と後ろ盾があるかどうかです。豊橋市の基本方針が本物かどうかは、最初の悪質事案で職員を守れるかで決まります。
