2026.02.06
退職代行と「非弁提携」問題をどう断ち切るか。東京弁護士会声明が示す線引きと利用者保護|一般社団法人クレア人財育英協会
【出典】「弁護士法人オーシャン」及び梶田潤弁護士の書類送検の報道について(東京弁護士会)
東京弁護士会が声明──「弁護士法人オーシャン」代表弁護士の書類送検報道を「極めて遺憾」
東京弁護士会は2026年2月5日(2月6日更新)、退職代行サービス「モームリ」の運営会社社長らから違法に法律事務の紹介を受けたとして、警視庁が同会所属の「弁護士法人オーシャン」および同法人代表の梶田潤弁護士を弁護士法違反の疑いで書類送検したとの報道に接したとして、公式声明を公表しました。
声明は、当該行為が「弁護士に対する信頼を損なうものであり、極めて遺憾な事態」と明確に述べています。東京弁護士会は、これまでも退職代行サービスと弁護士法違反(非弁行為)に関する注意喚起を行い、「非弁提携弁護士の根絶」を掲げてきた経緯を示したうえで、本件にも適正に対処し、今後も信頼確保に全力で取り組むとしています。
このニュースが重い理由──「退職代行」ではなく「非弁提携」の問題
今回の声明が焦点化しているのは、「退職代行が良い・悪い」という単純な議論ではありません。論点は、弁護士以外の者が報酬目的で法律事務を周旋する、いわゆる非弁行為、そして弁護士側がそれに関与する「非弁提携」の問題です。
退職は一見「意思表示の伝達」に見えますが、実際には残業代、退職金、有給休暇、損害賠償、慰謝料など法的な争点を伴うことがあります。そこに「交渉」が入った時点で、法律事務に踏み込みやすくなり、事業者・利用者双方のリスクが跳ね上がります。
東京弁護士会が繰り返し強調しているのは、退職代行市場が拡大する中で、「法律事務の周旋」をビジネスにし、そこに弁護士が関与する構造が社会の信頼を傷つけるという点です。今回の声明は、その“線引き”を社会に再提示する意味を持ちます。
東京弁護士会の過去の注意喚起──「非弁行為」と「周旋」の具体例
東京弁護士会は2025年10月22日にも、退職代行サービスと弁護士法違反に関する注意喚起を公表していました。今回の声明は、その延長線上にあります。
注意喚起では、退職代行業者が本人に代わって会社と話し合い、残業代の具体的金額を示して交渉した結果、支払いを得たケースが「非弁行為」になり得ると説明しています。残業代の有無や算定は法律問題であり、弁護士等でない者が代理交渉することは弁護士法に抵触する可能性があるという整理です。
また、退職代行業者が「法律的問題は提携先の労働組合が交渉する」としつつ、本人から代金を受け取り、法律問題の処理を他者へあっせんすることも非弁行為になり得る、としています。重要なのは、交渉する主体が労働組合であっても、「周旋の仕方」「金銭の受け取り方」次第では問題になる可能性があるという点です。
つまり、「退職の意思を伝える」という表層の裏で、法的争点が混ざった瞬間に、業界はグレーからアウトへ転ぶ。その境界を、利用者が理解しにくいこと自体がリスクなのです。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──利用者保護の鍵は「業務範囲の見える化」
東京弁護士会の声明は、弁護士倫理の問題であると同時に、利用者保護の問題でもあります。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点から、今回の論点で重要なのは次の3点です。
第一に、「退職代行に頼むとき、何をしてもらうのか」を分解することです。退職意思の伝達と、条件交渉は別物です。残業代、慰謝料、退職金、有給の争いなど、交渉が必要なら、最初から弁護士等へ相談する方が安全です。「退職だけ」のつもりが、途中から法的争点に変わるケースが一番危険です。
第二に、事業者側の説明責任です。利用者は「退職できればいい」と思って依頼します。しかし、法的保護が必要な場面で、正しい助言や算定が得られないと、本来受けられるべき権利を失う可能性があります。東京弁護士会が挙げた「残業代の計算は意外と難しい」という指摘は、まさに利用者保護の核心です。
第三に、企業側の“出口設計”です。退職が戦争になり、第三者に頼らざるを得ない構造がある限り、市場は拡大し続けます。企業は退職手続きの標準化、窓口一本化、退職面談の安全設計を整え、「退職を言い出せない」状況そのものを減らす必要があります。退職代行問題は、雇用側の制度不備の鏡でもあります。
結語:信頼を取り戻すには「線引き」と「運用」をセットで整える
東京弁護士会の声明は、退職代行市場に対して「弁護士法上の線引き」を改めて示すものであり、弁護士に対する信頼を守るための意思表示でもあります。重要なのは、これを単なる業界の内輪の話で終わらせないことです。
利用者は「どこからが法律問題なのか」を理解しにくく、企業は退職の出口設計が弱いまま、社会は退職代行に依存していく。ここに構造があります。一般社団法人クレア人財育英協会は、退職代行と非弁行為の線引きを社会に分かりやすく伝えつつ、企業側の退職プロセス整備と、働く人が安心して辞められる環境づくりの両面から支援していきます。
