2026.01.29

山口大学にアカハラ判決で賠償命令。教授の言動と大学の初動不備が「人格侵害」と「安全配慮義務違反」になる瞬間|一般社団法人クレア人財育英協会

【出典】「アカハラ」山口大学大学院の教授と大学に損害賠償支払い命令…言動の一部について違法性を認める


山口地裁が教授と大学に賠償命令──「言動の一部は違法」「大学対応も不備」

山口大学大学院医学系研究科の女性講師が、上司にあたる男性教授から学内の立場を利用した嫌がらせ、いわゆるアカデミック・ハラスメント(アカハラ)を受けたとして、教授と大学を相手に慰謝料など計500万円を求めた訴訟で、山口地裁は2026年1月28日、教授と大学に損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡しました。

判決は、教授の言動の一部について違法性を認め、教授と同大に計33万円、同大に22万円の支払いをそれぞれ命じています。請求額とは開きがあるものの、「どの言動が人格侵害に当たるか」「大学がどこで安全配慮義務違反に陥ったか」を切り分けて示した点が重要です。


教授の発言:「大学院生レベル」「他の先生はみんなちゃんとやっている」

報道によると、女性講師は2018年3月から2021年4月にかけて、同僚の前で教授から「大学院生レベルの研究だ」「他の先生はみんなちゃんとやっている」などと責められ、嫌がらせを受けたと訴えていました。

研究指導や業務上の指摘は必要な場面もありますが、問題になるのは「言い方」と「場」と「継続性」です。同僚の前で繰り返し人格を傷つける形で行われれば、指導ではなく、立場を使った圧力として機能します。裁判所は教授の言動の一部を「人格的利益を侵害する不法行為」と認定したとされています。


大学の対応:相談を受けながら聴取せず、配置換えなど適切措置も取らず

判決が示したもう一つの焦点は、大学側の対応です。女性講師は大学に相談していたにもかかわらず、大学は教授への事実関係の聴取を行わず、所属の配置換えなどの適切な措置も講じなかったとされます。

山口地裁は、大学の対応の一部についても安全配慮義務違反に当たると判断しました。ここで重要なのは、「加害行為の有無」だけでなく、「相談を受けた組織が何をしなかったか」が責任として認定され得ることです。アカハラは研究室の閉鎖性と権限差ゆえに長期化しやすく、組織の初動が遅れるほど被害は深まります。


当事者の言葉:「精神を病み、研究室に行けず孤独だった」

判決後の記者会見で、女性講師は「精神を病み、研究室に行けなくなり、孤独だった。ハラスメント行為が司法の判断で認められたことは良かった」と語ったと報じられています。アカハラは、研究者のキャリアだけでなく、人間関係と居場所を同時に奪う点で残酷です。

一方、山口大学は「本学の主張の一部が認められなかったことについて誠に遺憾」とコメントしています。今後、控訴などの動きがあるかどうかは別として、大学が問われているのは「判決をきっかけに運用をどう変えるか」です。


雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──大学のアカハラは「言動」より「運用」が被害を拡大させる

今回の判決が示唆するのは、アカハラの本質は「教授のきつい言い方」だけではなく、「止められない仕組み」にもあるという点です。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点では、特に次の3点が重要です。

第一に、指導と人格侵害の境界線を、個人の感覚ではなく組織の基準として示すことです。「厳しい指導は必要」という言葉は便利ですが、同僚の前での貶め、比較による羞恥、継続的な否定は、研究指導ではなく人格侵害になり得ます。評価と指導が絡む大学ほど、禁止ラインの具体例を研修で反復する必要があります。

第二に、相談が入った時点での初動設計です。今回、大学が教授への聴取や配置換えを行わなかった点が問題視されました。相談窓口は「あるだけ」では意味がありません。受理したら、期限を切って聴取し、暫定措置(面談の同席、指導関係の一時変更、研究室の安全確保)を打つ。初動の遅れが被害を固定化させます。

第三に、被害者が孤立しない環境を用意することです。研究室に行けない、居場所がない、共同研究ができない。この状況は「研究者としての死」に近い。大学は人事・研究支援・メンタルケアを一体化し、研究継続の代替ルートを用意する必要があります。被害者が「辞める」以外の選択肢を持てるかどうかが、組織の成熟度を決めます。


結語:アカハラは「裁判の勝ち負け」ではなく、研究教育の信頼をどう守るかの問題

本判決は、教授の言動の一部が違法であり、大学の対応の一部も安全配慮義務違反になり得ることを示しました。賠償額の大小に目を奪われると、本質を見誤ります。問われているのは、「研究室の権限差が生む沈黙」を、組織がどう断ち切るかです。

一般社団法人クレア人財育英協会は、大学がアカハラを個人の問題に矮小化せず、指導基準の明文化、相談初動の設計、被害者の研究継続支援をセットで実装できるよう支援していきます。

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