2026.02.03
【徹底解説】退職代行「モームリ」運営会社の社長夫妻逮捕。弁護士法違反と“非弁”リスク、退職代行ビジネスの線引き|一般社団法人クレア人財育英協会
【出典】
【独自】退職代行「モームリ」運営会社社長(37)と妻(31)を逮捕 報酬目的で退職交渉に関する仕事を違法に弁護士らに紹介か 弁護士法違反の疑い 警視庁
「論破してみろよ」モームリの社長は皆の前でパワハラ…元従業員証言(過去報道・参考)
何が起きたのか。「モームリ」運営会社の社長と妻を弁護士法違反容疑で逮捕
TBS NEWS DIGの報道によると、退職代行サービス「モームリ」を運営する会社「アルバトロス」の社長・谷本慎二容疑者(37)と、妻で従業員の谷本志織容疑者(31)が、弁護士法違反の疑いで警視庁に逮捕されました。
弁護士法では、弁護士以外の人が報酬目的で法律事務に当たる仕事を周旋(あっせん)することなどを禁じています。報道では、2人が報酬目的で「退職交渉に関する法律事務」を弁護士らに紹介した疑いが持たれています。
「モームリ」は2022年に事業を開始し、依頼者に代わって会社へ退職の意思を伝えるほか、有給休暇の日数や必要書類の確認など退職手続きを代行してきたとされています。利用者は若者を中心に増え、累計利用者数は4万人を超えると報じられています。
また、警視庁は2025年10月に、弁護士法違反の疑いがあるとして運営会社の本社や谷本容疑者宅、弁護士事務所などを家宅捜索し、事情聴取や資料分析を進めていたとされています。今回の逮捕は、その捜査の延長線上にあります。
ポイントは「退職代行=違法」ではない。違法になり得るのはどこか
まず押さえるべきは、退職代行というサービス自体が直ちに違法だと断定できる話ではないことです。退職代行は、依頼者の意思を会社に伝える、事務連絡を行うなど、一定の範囲では社会に定着してきました。
一方で、争点になりやすいのは、会社側との「交渉」に踏み込むかどうかです。例えば、退職条件や金銭(未払い賃金、残業代、損害賠償、解決金など)をめぐって相手方と交渉する行為は、法律事務に該当し得る領域に入りやすく、慎重な線引きが必要になります。
今回の報道では、「退職交渉に関する法律事務」を弁護士らに紹介し、報酬を得る目的があった疑いが持たれています。つまり、サービスの中身よりも「法律事務の周旋」と「報酬目的」が問題の核として扱われている構図です。
なぜこの事件が大きいのか。退職代行市場の信頼と、利用者保護の論点
退職代行は、退職を言い出せない人の“出口”として広がった一方で、事業者の質や運用の透明性にはばらつきがあるのが実情です。今回の逮捕報道は、利用者にとって「どのサービスを選べば安全なのか」という不安を増幅させます。
企業側にとっても他人事ではありません。退職代行経由の連絡が来た時に、窓口対応を誤るとトラブルが拡大しやすい。退職意思の受領、貸与物返却、最終給与、社会保険の手続きなど、一定の型を整えておく必要が高まります。
さらに、過去報道では、運営会社内部のマネジメントや労務面の課題が指摘されたこともあります。集英社オンラインは、元従業員の証言として、社内での圧迫的な運用や“ミスの可視化”が萎縮を生んでいた可能性などを報じています。これが事実なら、外向きの「退職を助ける事業」と内向きの「働く環境」のギャップが、企業リスクとして再注目されることになります。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点。退職代行が伸びる会社には「共通の穴」がある
退職代行の利用増を、個人の気質や若者の問題に矮小化すると、現場は変わりません。KCPの視点では、退職代行が“必要になる”職場には共通項があります。
第一に、退職の意思表示が「対話」ではなく「対立」になっている職場です。辞める人が悪者になり、上司が引き止めを強要し、本人が言い出せなくなる。退職代行は、そこから逃げるためのインフラになります。
第二に、退職手続きが属人化している職場です。誰が何をいつ返すか、残有給はどう扱うか、社会保険はどうなるか。ここが曖昧だと、本人は不安になり、代行に頼る動機が強まります。
第三に、ハラスメントリスクと労務リスクが同時に存在する職場です。言いづらい、話が通じない、手続きも遅い。結果として「自分で交渉するのが怖い」と感じる人が増えます。
退職代行の問題は、サービス事業者の適法性だけでなく、雇用する側の“出口設計”の問題でもあります。
実務の提言。利用者、企業、退職代行事業者が押さえるべき線引き
ここから先、現場で必要なのは「炎上」に乗ることではなく、線引きを実務に落とすことです。
利用者側は、退職意思の伝達なのか、交渉(未払い賃金や損害賠償等)まで必要なのかを整理したうえで、依頼先を選ぶことが重要になります。交渉が絡む場合は、弁護士など専門職に相談する選択肢が現実的です。
企業側は、退職代行から連絡が来ても慌てないように、窓口一本化、事実確認のテンプレ、手続きの標準化を進めることが先決です。退職代行の“合法・違法”を現場判断で断じるのではなく、自社の手続きの品質でトラブルを起こさないことが、最短のリスク低減になります。
事業者側は、業務範囲の明確化、説明の透明性、依頼者保護のルールを整備しなければ、業界全体が信頼を失います。適法性の議論は、サービスの健全化と一体で進めるべきです。
結語:逮捕報道を「業界の終わり」にしないために
今回の逮捕報道は、退職代行市場に対して強い警鐘になりました。しかし同時に、退職代行が求められてきた社会背景も消えません。辞め方が難しい職場がある限り、退職をめぐる支援ニーズは残り続けます。
だからこそ、必要なのは二つです。退職代行ビジネスの線引きを明確にし、利用者を守ること。企業側が退職の出口を整え、対話可能な職場文化へ寄せていくこと。一般社団法人クレア人財育英協会は、ハラスメントと労務の両面から、退職が「戦争」にならない職場づくりを支援していきます。
