2026.01.26
「ハラスメント恐怖」で会話が死ぬ職場をどう救うか。上司の傾聴を“スキル”で終わらせない設計|一般社団法人クレア人財育英協会
【出典】「ハラスメント」用心してコミュニケーション希薄化する時代、上司はどうしたら…「傾聴」のススメ
「用心しすぎて会話が減る」時代──職場の希薄化と支援の重要性
「ハラスメント」という言葉が社会に定着する一方で、必要以上に用心するあまり、職場のコミュニケーションが希薄化しているという指摘があります。会話が減れば、悩みや不安のサインは見えにくくなり、メンタル不調や離職につながるリスクも高まります。
読売新聞はこの問題意識のもと、一般社団法人日本産業カウンセラー協会九州支部・佐賀地域責任者の福光弘高さん(64)に、理想的なコミュニケーションを構築するコツとして「傾聴」の重要性を聞いています。産業カウンセラーの育成や企業研修、個人相談などに取り組む同協会は、メンタルヘルス推進を通じた職場環境の改善を支える役割を担っています。
傾聴とは何か──「教えない」「指示しない」「誘導しない」
福光さんが説明する傾聴の要点は明快です。話し手の言うことを評価・批判せず、相手の気持ちになって耳を傾けること。日常会話では、どうしても「自分の判断基準」で相手を測りがちですが、傾聴ではそれを横に置く。
特に強調しているのが、「教えない」「指示しない」「誘導しない」という姿勢です。この姿勢で話を聞けば、自然と相手の気持ちがこちらに向いてくる。相手を“正す”のではなく、“受け止める”。それが対人関係を築くコツだと述べています。
上司が使える具体策──挨拶の一言と「比喩」で感情を引き出す
福光さんは、上司が使える具体的な工夫として二つ紹介しています。
一つ目は、挨拶の際に目を見ることに加え、「昨日あの野球チーム勝ったね」など、ちょっとした一言を添えること。そのためには、相手の好きなことや関心を日頃から知っておく必要があります。雑談を“無駄”として切り捨てず、関係性を保つためのインフラとして扱う発想です。
二つ目は、物に例えて気持ちを表現してもらう方法です。「今の気持ちをタンスの中に例えるとどう?」と聞き、「ごちゃごちゃしている」と返ってくれば不満や混乱があるかもしれない。「整理されている」なら落ち着いているのかもしれない。感情を直接言葉にしにくい人でも、比喩を使うと話しやすくなる、という実務的な提案です。
「昔の当たり前」が通用しない時代──職場の共通言語が失われている
福光さんは、前職で配置転換によるギャップで精神的につらい経験をしたことをきっかけに、産業カウンセラーの学びに出会ったと語ります。知識や考え方でつらさを乗り越え、仕事にも生かせた経験が、現在の活動につながっているという背景です。
さらに、「昨日のテレビ見た?」という会話さえ通用しないほど、お互いを分かり合える環境が少なくなっていると述べています。共通の話題や前提が崩れ、職場の共通言語が弱くなると、人間関係は一気に脆くなる。その中で必要なのは、「自分が正しい」という基準を横に置き、相手の価値観を感じ取る姿勢だとしています。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──傾聴を「優しさ」ではなく「安全設計」に変える
傾聴はしばしば「やさしい上司の技術」として語られます。しかし現場で本当に必要なのは、気分や人格に依存しない“仕組み”としての傾聴です。雇用クリーンプランナー(KCP)の視点では、次の3点が重要だと考えます。
第一に、「沈黙のリスク」を管理指標として捉えることです。コミュニケーションが減った職場ほど、メンタル不調やトラブルは遅れて爆発します。傾聴を推奨するだけでなく、1on1の実施、相談導線の周知、定期的なストレスチェックなど、沈黙を減らす仕組みを整える必要があります。
第二に、傾聴を“上司の趣味”にしないことです。「教えない・指示しない・誘導しない」は理想ですが、忙しい現場ではすぐに崩れます。だからこそ、短時間でも成立する質問テンプレ、記録方法、困難ケースのエスカレーションなど、現場で再現できる形に落とし込むことが大切です。
第三に、ハラスメント恐怖による“無言の職場”を防ぐことです。ハラスメントを恐れて会話が消えると、逆に誤解や孤立が増えます。傾聴は、ハラスメントを避けるための回避策ではなく、相手を尊重しながら必要な指導や調整を行うための土台です。「言わない」ではなく「言い方と聞き方を設計する」ことが、働きやすさを決めます。
結語:ハラスメント対策の最終形は「話せる職場」を取り戻すこと
ハラスメントをなくすことは、職場を静かにすることではありません。むしろ、安心して話せる職場を取り戻すことです。傾聴は、そのための入口であり、関係性を回復させる技術でもあります。
一般社団法人クレア人財育英協会は、傾聴を「良い話」にとどめず、組織が再現できる仕組みとして実装し、コミュニケーションの希薄化が生む二次被害を防ぐ支援を続けていきます。
