2025.12.16
公務員へのカスタマーハラスメントが深刻化──愛知県美浜町で半年800件超も
【出典】カスハラで狙われる公務員 愛知県美浜町で半年間で800件の「カスハラ」 男性謝罪で町は提訴見送りも
カスタマーハラスメントが狙うのは企業だけではない──公務員も標的に
客の暴言や理不尽な要求が続くカスタマーハラスメント(カスハラ)は、もはや民間企業だけの問題ではありません。
愛知県・知多半島の美浜町では、たった一人の男性町民からのカスハラ行為が半年間で800件以上に上り、職員のメンタル不調や業務停滞を招く深刻な事態に発展しました。
町は最終的に損害賠償400万円の提訴を視野に入れるところまで追い詰められています。
エスカレートするカスハラ行為──「女に代われ」「退職まで何か月だ?」
問題の男性によるカスハラ行為は、約6年前から続いていました。
発端は、空き家の解体に関する補助金申請や、近隣との土地境界トラブル。
担当職員が法令や制度上、対応できない説明をしても、男性は窓口や電話で過度な要求を繰り返し、次第に言動がエスカレートしていきました。
美浜町が記録した資料によれば、2025年10月1日には、男性はこう発言しています。
- 「自分の敷地内で建設会社が何かやっている。町が発注したんだろう」
- 町が関与していないと説明すると「なんでできないんだ。退職まで何カ月だ? 副町長に言うぞ」
- 「女に代われ」「役場内で結婚してもいいのか」などの女性職員に対する差別的発言
この日は3時間で15件の電話が役場の各課に集中。数分単位で部署を変えながら電話を繰り返すなど、組織全体を狙った「電話カスハラ」といえる行為でした。
美浜町によると、こうした電話・文書・窓口でのやり取りは、半年間だけで合計800件以上にのぼったといいます。
職員のメンタルにも影響「過激な言葉で罵倒されるのが一番きつい」
美浜町総務部長・宮原佳伸氏は、取材に対し次のように話しています。
「『そういう言い方はやめてください』『そのような質問はお受けできません』と伝えても、ほとんど効果がなかった。過激な言葉で罵倒されるとメンタル的にもきつく、職員からは強い苦痛が訴えられていた」。
公共サービスを担う公務員であっても、ひとりの人間であり、暴言・威圧・長時間拘束は明確にハラスメントです。
なぜ公務員へのカスハラが増えるのか──「成功体験」がエスカレートを招く
日本ハラスメント協会代表理事の村嵜要氏は、公務員へのカスハラが増える背景についてこう分析します。
- 公務員の職場は税金で成り立つ公共サービスであり、「住民を怒らせないように」と強く出にくい心理構造がある。
- 多少無理な要求をしても、前に対応した職員が何とか対応してしまうことで、カスハラ行為者に「成功体験」を与えてしまう。
- その結果、「今回も、もっと強く言えば通る」と考え、さらに要求がエスカレートしてしまう。
カスハラに対して曖昧な対応を続けるほど、行為者を助長し、現場職員を追い詰める構造がはっきりと見えてきます。
美浜町が損害賠償400万円の提訴方針──「このままでは職員を守れない」
こうした状況を受け、美浜町は男性に対し400万円の損害賠償請求を行うための議案を臨時議会に提出。
議会は全会一致で可決しました。
町が男性に送付した通知書では、
- 「職員に対して不適切であり、業務執行に著しい支障をきたしている」
- 「行為が収まらなければ、今後あらためて通知することなく訴訟手続きを進める」
と明記し、繰り返されるカスハラ行為には法的措置も辞さない姿勢を示しました。
謝罪で提訴は一旦見送り──「手は下ろしていない」と再発時の訴訟も明言
通知から数日後、男性は役場を訪れ、次のように謝罪したといいます。
「これまでの自分の発言や言動は、職員に大変申し訳なかった。深く反省している。二度としません」。
この謝罪を受け、美浜町は提訴を一旦見送る判断をしました。
しかし宮原総務部長は、「再度同様の行為があれば即座に行動に出ると、その場ではっきり伝えた。手を下ろしたわけではない」と述べており、カスハラ行為を容認しない姿勢を明確に示しています。
カスハラは半数が経験──自治体現場で進む「公務員版カスハラ対策」
自治労連が実施した全国調査では、「職場で一度でもカスハラ被害を受けた」と答えた公務員は47.6%に上り、ほぼ半数が何らかのカスタマーハラスメントを経験している実態が明らかになっています。
窓口・電話・メール・SNSなど、住民と接する機会が多いほど、公務員はカスハラのリスクに直面します。
美浜町のケースは、「毅然とした対応と、職員を守る覚悟」を示した先行事例として、他の自治体にも大きな示唆を与えています。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点──公務員へのカスハラを止める3つのポイント
美浜町の事例は、今後のカスハラ対策を考える上で、自治体・企業共通の教訓を含んでいます。
雇用クリーンプランナー(KCP)の視点から、特に重要なポイントを3つに整理します。
① 行為の記録と「ライン」を明文化する
- 電話・窓口・文書・メールでのやり取りを可能な限り記録・保存し、事実関係を「見える化」する。
- どのような言動がカスハラに該当するか(暴言・威圧・長時間拘束・SNS中傷など)を、ガイドラインやポスターで明確に示す。
② 現場を一人にしない相談・エスカレーション体制
- 各部署に相談窓口や担当者を置き、職員が一人で苦情対応を抱え込まない体制をつくる。
- 一定のラインを超えたカスハラは、上司・管理職・法務・外部専門家へエスカレーションするフローを整える。
③ 「意見歓迎・暴言NG」の姿勢を継続的に発信する
- 「正当な意見や苦情は歓迎するが、暴言や威圧行為は受け入れない」というメッセージを、広報・窓口表示・HPで繰り返し発信する。
- 利用者側にも「ルールを守れば、きちんと話を聞いてもらえる」という安心感を提供し、対話の土台を整える。
結語:住民の声と職員の尊厳、どちらも守れる自治体へ
カスタマーハラスメントは、「声の大きい一部の人」の行為によって、現場職員の心身を削り、他の市民へのサービスまで奪ってしまう行為です。
美浜町のように、記録を取り、組織として線を引き、必要なら損害賠償請求も辞さない姿勢は、今後の自治体カスハラ対策の重要なモデルケースとなるでしょう。
KCPは、住民の声を大切にしつつ、働く人の尊厳も守る「両立」の仕組みづくりを、引き続き支援していきます。
